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神戸簡易裁判所 昭和27年(ハ)191号 判決

原告 岡とみ 外一名

被告 谷口義一

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「被告は、原告等にたいし、別紙目録<省略>記載の土地二・四六坪(以下本件土地という。)を、右地上所在、木造トタン葺バラツク建事務所用建物一戸(建坪一・七二坪、以下本件建物という。)を収去して明渡し、かつ、昭和二十七年十一月二十六日から本件土地明渡ずみに至るまで、一ケ月金三十六円の割合による金員を支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告等は、神戸市兵庫区羽坂通二丁目十番地宅地二二二・一五坪と、同所十三番の一宅地九・七七坪を共有していたところ、昭和二十五年二月二十日、神戸復興特別都市計画事業の施行に伴う土地区画整理により、右両土地の換地予定地として、別紙目録記載の土地一七四・八坪の指定をうけたので、その翌日以後、右換地予定地全部について使用収益権を有するものであるところ、被告は、昭和二十七年十月上旬頃、右換地予定地の一部である、本件土地の上に、原告等に無断で何等の権原なく本件建物を建築し、本件土地を不法に占拠しており、これにより原告等は、地代家賃統制令に基く昭和二十七年四月一日施行の物価庁告示により算出した本件土地の地代相当額である一ケ月金三十六円の割合による損害を蒙つているのでここに被告にたいし、本件建物を収去して本件土地の明渡を求めるとともに、訴状送達の日の翌日である昭和二十七年十一月二十六日から右明渡ずみに至るまで、前記損害金の支払を求めるため、本訴におよんだ。」と陳述し、被告の主張にたいし、「本件土地が訴外浦上某の所有地であることは認めるが、このことは、原告等が本件土地の使用収益権を有することについて何等の消長が無い。」と述べ、

予備的請求として、「被告は、原告等にたいし、神戸復興特別都市計画事業土地区画整理施行者たる神戸市長(以下単に神戸市長という)において、本件土地につき、原告等にたいする使用開始の日を定めたときは、その日限り、本件建物を収去して本件土地を明渡さねばならない。」との判決を求め、その請求の原因として、本件換地予定地の内、本件土地を含む一部約十四坪は、訴外浦上某の所有地で、その地上には、元訴外上田宇吉所有にして現在訴外知念宏徳所有の木造バラツク平家建建物一棟(建坪六・七一坪)が存在している関係上、右約十四坪の土地について、神戸市長において、使用開始の日を定めるまで、原告等にその使用収益権が無いとしても、使用開始の日が定められたときは、その翌日から、原告等はこれが使用収益権を有するに至るものであるところ、被告が、その使用開始の日に、なお本件土地を明渡さない虞があるので、被告にたいし右使用開始の日限り、本件建物を収去して、本件土地の明渡を求めるため、予備的請求におよんだ。」と陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、第一次的請求原因にたいする答弁として、「原告等主張の事実上、本件建物が本件土地の上に存在することは、これを認めるが、本件建物は独立した建物ではなく、訴外知念宏徳所有の家屋の附属建物として同訴外人の所有に属するものであるから、原告の本訴請求は、右訴外人を被告として提起すべきものである。仮にそうでないとしても、本件土地は訴外浦上某の所有地で、現在神戸市長の管理下にあり、原告等には、これが使用収益権がないのであるから、いずれにしても原告等の第一次的請求は失当である。」と陳述し、

予備的請求原因にたいする答弁として、「将来神戸市長において本件換地予定地につき使用開始の日を定めるときには、本件建物は既に収去されているべきものであり、従つて、右使用開始の日に被告が本件土地を明渡さない虞がないのであるから、原告の予備的請求もまた失当である。」と陳述した。<立証省略>

三、理  由

第一、第一次的請求にたいする判断。

原告等が、神戸市兵庫区羽坂通二丁目十番地の宅地二二二・一五坪と、同所十三番地の一宅地九・七七坪を共有していたところ、昭和二十五年二月二十日神戸復興特別都市計画事業の施行に伴う土地区画整理により、右両土地の換地予定地として、別紙目録記載の土地一七四・八坪の指定を受けたことは、被告において明かに争わず、右換地予定地の一部である本件土地の上に本件建物が存在することは、当事者間に争がないところ、証人中野桂吾、長谷川松蔵、および、知念宏徳の各証言に、本件建物の写真であること当事者間に争のない甲第三号証の一の一、および二を考え合わせると、本件土地は、訴外知念宏徳所有家屋の敷地に隣接し、空地として塵埃捨場になつていたところ、昭和二十七年十月上旬頃、被告が、本件土地について管理処分権のない同訴外人の諒解を得たのみで、自ら本件地上に右訴外人所有家屋と別個独立した本件建物を建築したことが認められるのであつて、右認定を覆えすに足る何等の証拠がない。そうすると、被告は、本件建物を所有して本件土地を不法に占拠しているというほかはない。

よつて、原告等が、前記換地予定地の指定を受けたことにより、その指定の日の翌日から本件土地について使用収益権を有するに至つたかどうかについて考えてみる。

特別都市計画法(以下単に法という。)一四条一項によると、従前の土地の所有者(換地予定地の指定を受けた者。以下同じ)は換地予定地指定の通知を受けた日の翌日から、法七条一項若しくは二項、又は、耕地整理法(明治四十二年法律第三〇号)三〇条一項の規定による換地処分が効力を生ずるまで、換地予定地の全部又は一部について、従前の土地に存する権利の内容たる使用収益と同じ使用収益をなすことができることになつているのであるが、同条三項によると、換地予定地に建築物その他の工作物(以下建物等という。)が存するとき、その他特別の事情があるときは、整理施行者は、換地予定地について別に使用開始の日を定めることができ、この場合には、同条四項の反面解釈として、換地予定地の所有者は、使用開始の日まで換地予定地を使用収益することができるに反し、従前の土地所有者は、使用開始の日まで換地予定地を使用収益することができず、使用収益することができないことにより損害を蒙つたときは、同条五項により、通常生ずる損害に限り、整理施行者にたいし、その補償を求めることができるに過ぎないと解すべきであるところ、成立に争のない甲第三号証の三に、証人塩見良慎の証言を考え合わせると、本件換地予定地の指定については、使用開始の日は追て指定する旨定められていることが認められるのであるから、原告等は、本件換地予定地の内、訴外浦上某の所有地である(この点当事者間に争がない)本件土地については、神戸市長において、使用開始の日を定めるまで、その使用収益権が無いといわねばならない。

そうすると、現在原告等に本件土地の使用収益権があることを前提とする原告等の第一次的請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

第二、予備的請求にたいする判断。

当事者間に、訴提起の当時において何等基礎的な債権関係がなく、将来一方が、或条件の成就により一定の権利を取得したときに、はじめて、右権利に基き、他方にたいし一定の義務の履行を求め得る具体的な請求権が発生するという関係がある場合に、右条件成就前、一方が他方にたいし、右権利に基く将来の義務の履行を求める訴を提起し得るためには、(一)、その条件が必ず成就すると認められる(この場合は期限というべきである。)か、少くとも、成就の蓋然性が相当高度に認められるものであること、(二)、条件成就により生ずる請求権に基く義務を他方が履行しない虞が明かに認められること、の二要件が存しなければならないと解すべきところ、

(1)  換地予定地について、使用開始の日を追て指定する旨定められたときは、従前の土地の所有者は、他人所有の換地予定地について、その使用収益権のないこと前説示の通りであつて、将来定めらるべき使用開始の日までの従前の土地の所有者の地位は、単に、整理施行者との関係において将来換地予定地を使用収益し得るという一種の期待権を有するに過ぎず、右地上に建物等を所有する者との間には、直接何等の法律関係がないと解すべきである。

(2)  特別都市計画事業による土地区画整理については、換地処分(いわゆる本換地)は、整理施行地の全部につき工事が完了した後でなければこれをなすことを得ない(耕地整理法三一条)のであるけれども、工事施行のために建築物その他の工作物の移転等を円滑になさしめるとともに、可及的速かに土地の権利者の権利関係を安定させる必要から、法一三条において換地処分の前提として、換地予定地の指定がなされ得ることを認めたものであつて、換地予定地は、地方長官の認可があつたとき、はじめて、換地としての効力を生じ(前同法三〇条三項)、認可告示の日から換地は従前の土地と看做される(同法一七条)のであるから、その間、整理施行地区が変更され、又は特別都市計画事業自体が廃止されることにより換地予定地が変更され又は、取消される虞があり(同法三条二項)、換地予定地が、必ずしもそのまま換地として認可されるとは限らないのであるけれども、従前の土地の所有者、その他の関係人は、換地予定地がそのまま換地として認可されることを予想して、建物等の移転計画を樹てたり或は、従前の土地を処分する等種々の法律関係を結ぶものであるから、整理施行者は、特別の事情がない限り、みだりに換地予定地の指定を取消し、又は、変更することができず、換地予定地をそのまま換地として認可すべきであるといわねばならない。そして、換地予定地につき使用開始の日を追て指定することになつている場合は、右認可の前提として(認可まで相当長期間を要するものであるから)整理施行者は、後記説示の通り、特別の事情がない限り、可及的速かに換地予定地上に存する建物等を除却して、使用開始の日を定める義務があるといわねばならないのであるから、整理施行者において使用開始の日を定める蓋然性、換言すれば従前の土地の所有者が、使用開始の日が定められることを条件として取得し得べき換地予定地にたいする使用収益権の生じ得べき蓋然性は、極めて高度のものというべく、かかる高度の成就の蓋然性を有する条件の成就により取得し得べき権利はその成就前においても法律上一定の限度において保護する必要があるといわねばならない。

(3)  ところで、使用開始の日を別に定めることができる旨規定した法一四条三項の目的は、換地予定地上に建物等が存するため、これが移転、除却若しくは破毀されるまで相当長期間を要するに拘らず、換地予定地の指定により、直ちにこれを使用収益し得るという同条一項の原則を貫くときは、建物等の所有者と、従前の土地の所有者との間に徒らに紛争混乱を生ずることを防止し、区画整理を円滑になさしめようとするにあるのであるから整理施行者は、原則として、換地予定地上に建物等が存するときは、法一五条により、その所有者にたいし、換地予定地を指定してその移転を命じ(権原に基きそれらを所有している場合、若しくは権原の有無不明の場合)、或は、耕地整理法二七条によりこれを、除却し、又は破毀することを命じ(無権原でそれらを所有している場合)これに従はないときは、行政代執行法により強制的にこれらの物を除却して、換地予定地を更地とした上、その使用開始の日を指定して、該期日にこれを従前の土地の所有者に引渡すべき義務を負つているものというべきである。けだし、建物等の除却が完了しない前に使用開始の日を定めることは、右法条の目的に反するからである。尤も、法五条二項には、特別都市計画事業による土地区画整理については、工事が完了する前においても、換地処分をなすことができる旨を定めているのであつて、右規定から考えると、換地処分の前処分たる使用開始日指定処分も、工事完了前(即ち建物等を除却する前)にこれをなすことができると解せられるのであるが、これは、敢くまで例外的に認められているものであつて、工事の完了をまつことができないか、或は、工事の完了をなし得ない(例へば建物等を除却することにより建物等の所有者に支払うべき補償費の予算が無いというような。)等特別の事情が存する場合にのみなし得るものと解すべきである。従つて、右のような特別の事情が存しない限り、使用開始の日が定められるときは、既に換地予定地上には建物等が存在しないといわねばならないから、建物所有者が建物収去義務を履行しない虞は全くないものといわねばならない。

(4)  これを要するに、換地予定地の指定と同時に、その使用開始の日を追て指定する旨定められている場合において、従前の土地の所有者が、他人所有の換地予定地の上に、建物等を所有する者(換地予定地の所有者との関係において正当な権原に基くと否とを問わず)にたいし、将来使用開始の日が定められることを条件として、右使用開始の日限り、建物を収去して換地予定地を明渡すべき旨の将来の給付の請求をなし得るためには、換地予定地指定処分が、取消され若しくは変更されるべき特別の事情が存在せず(通常は、かかる特別事情が存在しないと推定される)、かつ、整理施行者が、建物等を除却する前に使用開始の日を定めるべき特別の事情が存在する(通常かかる特別事情は存在しないと推定される)ことを要するといわねばならない。

これを本件について考えてみるに、原告等が、訴外浦上某所有の本件土地を換地予定地として指定され、その使用開始の日は追て指定する旨定められていること、被告が本件地上に何等の権原なく本件建物を建築所有していることはいずれも前認定の通りであるところ、右換地予定地指定処分が取消され、若しくは、変更されるべき特別の事情の存在することについては、被告において主張立証しないところであるから、かかる特別の事実が存在しないと推定され、従つて、本件土地につき将来使用開始の日が定められ、原告等が本件土地の使用収益権を取得する蓋然性は極めて高度であると認められるけれども、神戸市長が、本件建物の除却を完了する前に、本件換地予定地につき使用開始の日を定めるべき特別の事情の存在することについては、原告等において主張立証しないところであるから、かかる特別の事情は存在しないと推定され、従つて、将来神戸市長において使用開始の日を定めるときは、既に本件建物は除却されているといわねばならないから、右使用開始の日に、なお、被告が本件建物を収去して本件土地を明渡さない虞が明かであるということができない。

そうすると、原告等の予備的請求もまた理由がない。

よつて、原告等の第一次的および予備的請求を、いずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

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